小谷田先生 ミャンマー訪問インタビュー記事掲載!
2012年6月 2日
インタビュアー:長谷川
インタビュイー:小谷田先生
Q.初のミャンマーだと思いますが、印象はどうだったですか。
ヤンゴンが都市化されていて、アジアの大きな街として発展していることに驚いたのが第一印象です。
ミャンマーが歴史と文化の国であることを忘れていました。もちろん田舎との格差はありますが、どこでも人々の優しい心が感じられ感激しました。
Q.軍国政府から変わったことで、来る前に持っていたイメージと実際を見てどうでしたか。
想像と明らかに違います。情報不足による先入観で、衛生面の問題も含め不安でしたが、杞憂だと分かりました。やはり現地に来てみないとわからない。
特にロンカン小学校に訪問させていただいたときは、悪路の中を走り、船に乗って、遠路はるばるという感じでしたが、村人がこぞって大歓迎をしていただいて、その姿を見て本当に感動しました。
Q.道中パンクをして修理する時間に、パオ族の村人がどうぞということで、家にも上がっていただいた。なかなかない経験だと思うがいかがでしたか。
パンク様々ですね(笑)。
パンクして時間が取れたおかげで、偶然の出会いで、高床式の茅葺小屋に住む3世代同居のおじいさん、おばあさん、夫婦、小さな子どもと巡りあい、しかも家の中に招き入れてもらって、素敵な触れ合いができ楽しかったです。
木と竹を組んだだけの素朴で小さな家だったけど、清潔に整頓され、仏様も先祖も祭ってある。家族の寄り添う姿が日本の忘れた昔のイメージを思い起こさせてくれました。
Q.学校を訪問していただき、沢山の村人が集まり、歯のチェック、歯みがき指導をしてもらった。お父さん、お母さんが熱心に聞いていたが、感想はどうですか。
子どもも大人も熱心に参加してくれて質問も出ました。
ほとんど治療経験がない子供どもばかりで、それなりにむし歯はあります。特に乳臼歯が多く、平均して2本から4本のむし歯がある。
治療を受けていないこともあるし、衛生思想や口腔のヘルスケアという考え方そのものが根付いていないのでやむを得ない。考えてみれば30年から50年前の日本は、同じような状態で、子どもたちのむし歯の大洪水だったわけですから。
へルスケア思想が根付くには時間がかかるけど、そうなれば大幅に改善されるだろうと期待できます。
Q.日本では、予防が発達しています。ミャンマーは村に歯科医院がないため治療になかなかいけないが、予防がポイントになりますか?
当然、治療が難しいとなれば、予防の教育・指導が最も効果的な手段です。
ただ、ヤンゴン歯科大学学長によると、ヘルスケアの浸透が非常に難しいとおっしゃっていた。これは一朝一夕に達成できることではなく、生活の改善に伴い、徐々に浸透するものと言えます。
Q.病気の人を治すことで目一杯で、予防には目が向いていないのでしょうか。
そもそも、ミャンマーの人口6000万に対して歯科医師は2500人で、ヤンゴンとマンダレーの歯科大学で年間の卒業生が300人です。現状の供給体制では、圧倒的に歯科医師が足りない。しかも、少ない歯科医師が都市に集中し、田舎には極めて少ないという偏在の問題もある。
それに加えて、国民は歯科治療を受ける経済的ゆとりも乏しく、診療が必要だという認識も乏しい。
それらの問題がありますから、治療も予防もまだまだ全体的に不足しています。
Q.公的保険制度がないという話も出ていましたが、制度面はどうですか。
日本の場合は国民皆保険制度があって、公的保険で守られていますが、こちらはそれがない。
制度的な保障がないと、医療が供給されにくいのは確かですね。
公的保険が社会保障として導入されることが理想ですが、今のミャンマーの現状を考えれば、特に軍事政権下では望みにくいし、民主化されても難しい問題です。学長の話でも、歯科医師会が政府に働きかけることまではできていないようです。
政治の問題はともかくとして、ヤンゴン大学は東京医科歯科大学と10年以上の交流があり、留学制度もあるようですから、民間交流のような形で裾野から広げていくことになるでしょう。日本歯科医師会も研修など多角的に支援できればいいですね。
Q.ヤンゴン市内で富裕層向けの歯科医院と町場の一坪診療所の2か所を見ました。料金もまちまちだったが、2か所を見ての感想は。
まさにエグゼクティブ向けのクリニックと庶民向けのクリニックで、雰囲気も造作も全く違う。日本の感覚でいえば、これほど違うかという感覚です。
ただ言えるのは、町場の庶民派の歯科医院は本当に狭いスペースで、ユニット1台、歯科医師1名、助手1名ですが、若い歯科医師の志は高く、自己研鑽への考え方もしっかりしている。いい加減なことはしていない。現実問題として、治療費は患者さんの収入に合わせていただくということで、治療費はかなり安い。でも将来性を感じました。
Q.2か所の治療の機械・器材・薬品などはどうでしたか。
歯科ユニットは、富裕層向けにしても庶民派の歯科医院にしても中国製で同じでした。
ただシロナ(ドイツの歯科用機器専門メーカー。シロナデンタルシステムズ株式会社)という会社のコピー商品のようで、もともとはヨーロッパのものです。器具・薬品については、日本が多く、次いでイタリア、韓国、中国とのことです。
学長の話では、日本のGCやモリタの製品が再進出をしてきたそうです。
Q タウンジー歯科医師会の先生方と話してみてどうでしたか。
人口50万の地方都市タウンジーの歯科医師会のメンバー5人にお会いしました。忙しい中、皆さんに来ていただいて、現在の課題や今後の目標も含め情報交換できて、お互いに有益だったと思います。
タウンジーには51名の歯科医がいますが、その中で開業歯科医院を専業でやっているのは16名で、それ以外の方は開業以外の仕事をしているそうです。例えば、タウンジー歯科医師会の会長は国立病院で、副会長は保健センターで仕事をしている。個人開業とは別の形で仕事している人が結構います。
Q どんな課題や悩みがあると思いますか。
課題は色々あり、例えば地元で無料診療の機会は作れても、奥地まで出掛ける予算がなく僻地医療に手が届かないなどです。
また、歯科大学の教育制度は5年制で、その後1年間のインターンを経ていますが、卒後の研修の機会は少ないようです。例えばむし歯治療だけでなく、最新の歯周病治療やインプラントもやりたいし研修も受けたいようですが、手段がないという悩みを抱えています。その点で日本歯科医師会や日本の歯科大学の連携が強まれば、情報提供や技術導入が図れると思います。
Q.まだまだ日本の昔の状態と同じ状況ということで、日本の歯科が培ってきたことが活かせるのではないかなと思いますが、どう感じましたか。
日本でも周産期・乳幼児期から高齢期までライフステージを通した歯と口の健康増進の思想が浸透するまで多くの年月がかかりましたし、まだゴールしたわけではありません。
ミャンマーでもヘルスケア思想を広めて、疾病中心より予防中心の取り組みができれば効果的です。
そのため必要なことを、都市部だけでなく田舎までカバーできるような研修や指導の支援体制を作りたいですね。
Q.ロンカン小学校の子どもたちを見てどんな感想を持ちましたか。
非常に印象的だったですよね。目がキラキラして、見るからに純真で知的好奇心も旺盛ですね。
国や地域の諸問題の解決はやはり教育が根幹だから、今回建設した学校が彼らの向上の拠点になってくれると嬉しい。本当に彼らが将来国を背負ってくれる人材になってほしいと願いますね。
とにかく子供たちが素直で明るいところに惹かれました。
Q.国際協力では、一方的に支援するだけでなく、お互い学びあう姿勢が大事ですが、ミャンマーの素晴らしかったところは。
ミャンマーの人々は、仏教の敬虔な宗教心に支えられて、お互いに信頼する、人を大切にする、裏切らない、家族をいとおしむといった、かつて日本人が持っていたはずの心情をきちんと身につけているという印象ですね。日本人がむしろ学ばなければいけない。それらの徳や理を怠りがちですから。
ただ現状では日本が積極的に情報提供・技術提供していく立場にありますから、必要なものについては、物心両面で支援する必要があるでしょう。そうはいっても、物を与えて一過性で済ませるようなことでは意味がない。セダナーの活動のように継続的に発展させる方策づくりが大切ですね。継続は力なり言葉の通り、地域社会が自分たちで物事を考えて育てていく、自立型で住民参加型の地域開発事業の姿勢が非常に重要なポイントだなと、今回の訪問で気づきました。
Q.最後にTFに一言。
今回、学校が10校建設されたことは、日本歯科医師会が社会貢献事業として参画させてもらった素晴らしい成果です。それをつぶさに目で見て現地の人々と触れ合えて大変嬉しく思っています。
これからも大磯の小児がん・難病支援プロジェクトを始め、歯科医師ができる社会貢献事業とは何かということを色々な面で、考えて実行できればと考えています。
今回の訪問は、有意義どころじゃなくて、大大大有意義でした!